あすかあきおの「超能力あばき」

 サイエンス・エンターテイナーなる肩書を持つあすかあきお飛鳥昭雄)氏は、オカルトや疑似科学方面の著書が多いことでしられている。恐竜は実は4500年前のノアの大洪水で滅んだのであるとか、地球の反対側(ヨリ正確には、点対称側)には第12番惑星、ヤハウェが存在しているとか、そういう主張をしている人だ。

 子供のころ、それまでは子供コーナーしか行ったことの町の図書館で、成人コーナーに初めて(2回目くらいかもしれない)足を踏み入れ、恐竜の面白そうな本だと思って借りたのがこの人の「恐竜には毛があった?」であった。今思うといろいろヤバい。

 そのほか、ノストラダムスの伝記などもものしているそうだが、なぜか表紙に「教科書に出てくる人の伝記」というマークがついていて、いったいどこの教科書が載せたのか大いなる謎でもある。

ノストラダムス―予言者で奇跡の医者 (講談社 火の鳥伝記文庫)

ノストラダムス―予言者で奇跡の医者 (講談社 火の鳥伝記文庫)

 

  かなり昔の本にしては珍しく? ちゃんとアマゾンの表紙画像があるので、左下のところをよくご覧になってほしい。未読なのだが、内容はそこまでぶっとんでいないとかなんとか。

 ところで、この人がもともとオカルトの伝道者だったかというと、そういうわけではないらしく、そういう作風になったのは90年代なかば以降らしい。

 山本弘「トンデモノストラダムス本の世界」やと学会「トンデモ本の世界」では、まだ「転向」する前の本として「きみにもスグできる超能力マジック」という著書が言及されている。

 

  こっちもちゃんと表紙の書影があるな…… それはともかく、コロタン文庫という子供向けレーベルということもあって長らく存在はともかく目にしたことのなかった本なのだが、最近入手する機会があった。巻末の既刊一覧をみると、「UFO全百科」「世界の妖怪全百科」なんていう、オカルトっぽいものもあるが、「キテレツ大百科 アッとおどろくからくり道具大図解」「最新ドラえもんひみつ道具カタログ 上・下」「ドラえもん全百科(正・続・新あり)」うん、持ってたわ子供のころ

 というかコロタン文庫というと自分にとってはそういう本なんですよね。小学館だから当たり前ではあるが。でも今回ラインナップを見ると、恐竜やプロ野球、星と星座など子供が興味持ちそうなものはかなり網羅していて結構充実したレーベルなんだなと思わされた。小学館のサイトをみてみると、最近でも妖怪ウォッチポケモンなどの本がこのレーベルから出ているが、昔と違ってオカルトや科学の本はほとんどなくなっているようだ。

 で、「超能力マジック」である。

 内容はけっこういろいろで、念力や透視を「起きているように」見せるマジックというようなタイトルどおりのものから、超能力っぽいとこもあるけど子供向けの普通の手品の範疇に近いんじゃないの?というもの、はたまた心霊写真やUFO写真のトリック撮影法あれこれ、あるいは実際のオカルト現象として有名なものを模したもの、などと多岐にわたっている。難易度別に初級・中級・上級・プロ級といくつかの章に分かれているが、上級やプロ級になると実際に世を騒がせたオカルトネタをモデルにした、トリックに凝ったものが増えてくる。

 なかにはたわいないのも。初級の冒頭に「いちばん簡単」なマジックとして出てくるものだしそんなものかもしれないが、「何色でも書けるペンシル術」 

1 まず、ふつうの鉛筆を見せて、「これは超能力をもった鉛筆デース。どんな色でも書けマース。何色にスルウ?」と聞いちゃう。(p22)

 どこかの英国から技術をお持ち帰りした戦艦みたいな口調が気になるが、この本でのあすか氏の文体がこんななのである。それはそうと、それからどうするかというと、

2 そこでもし友だちが「オレンジ色!」といったら、キミは紙をとって、そこに”オレンジ”と字で書いちゃうのサ!」

(p22)

 子供相手でも相手怒り出すと思うんだけどいいのかしら。「これをやると、必ず友だちの目が点になる!」とあるが、たぶんそれはあまりいい意味ではないと思うのだけれど。

 いやまぁ、そういういじわるクイズみたいなのの集大成ならそれはそれなんだけど、これ、残りはトリックの凝り方はいろいろあれど、ちゃんとマジックやってるからなあ。いいのかねえ。いいのか。

 まあしかし大半はそうではなくて、ちゃんとしたトリックやマジックである。念力や透視などを模したマジックについては、実際に子供が何かの出し物としてやれそうなものが多い。子供にすぐタネを見破られそうなのも多いけど、まあそれも含めてごく普通の手品の紹介だと思う。

 トリック写真の撮影術については、かなりいろいろな方法が紹介されている。なお一応マジック本なのでなるべくタネは書かないつもりだが、これについては手品として人前で演じる手のものではないと思うのである程度言及してもいいと思う。ので言及するが、例えば灰皿を投げてUFOっぽく見せる。航空写真の上にUFOの模型を置いて複写する、カメラのシャッタースピードをバルブにして飛行機を撮り、ときどきカメラこづいてやる(ふらふらUFOが飛んでいるっぽく見せかけるわけだ)、見えない糸でUFOを吊るして撮影、など。まだフィルムカメラの時代なので、ネガフィルムに黒絵具でUFOを書いて、焼き増しするとあら不思議白い光点が!なんていう荒業もある。ここではUFO写真ばかりを挙げたけれど、心霊写真のほうもなかなかバリエーションに富んでいる。

 実際のオカルト現象を模したもの、というのは最初のケースとそう線引きがはっきりしているわけではないが、ようするに半ばトリック暴きのような項目である。これになると、ちょっと毛色が異なってくる。

 「トンデモノストラダムス本の世界」では「ノストラダムスの予言術」が引用されていたが、これはp190に登場する。「巨人軍の優勝」と「年内に起きる核戦争」をテーマに予言を書いて、それを後になってからどうこじつけるか、という解説。巨人と核戦争を相並べるセンスはともかく、

もう君にもわかったと思うけど、四行詩のやりかただと、右へ行っても左へ行っても答えは正しくなるってことなのサ!これぞまさしく究極の『超能力マジック』なのダ!!(p193)

 山本氏は「身もふたもない解説である」と評している。まあそうなるな。

 また、「プロ級」の章には「フィルム直接文字念写術」というのがあるが、これは千里眼事件で使われたといわれているトリックを少し現代風にアレンジしていたものである。

 「コックリさん術」はまあぶっちゃけ10円玉を使ったコックリさんの紹介なんだけど、「ハハッご苦労様、キミが10円玉をかってに動かして驚かせただけサ!」というシンプルな種明かしがされている。というかこのページでタネらしきものはそれしか記載がないので、これはもはや超能力マジック紹介というより「コックリさんの正体はこうだ」である

 また、「人体浮遊写真術」というのもある。難易度別に2か所に似たようなマジックが紹介されているのだが、明確に出所は書いてないけれど、時代背景を考えてもアレをイメージしてるんだろう。何もないところから血や内臓を取り出す(あらかじめ肉汁やブタや鶏の内臓を仕込んでおくというもの)「心霊手術」なんてのもある。これは東南アジアや南米あたりで行われている(た?)スピリチュアル系医療をモデルにしているようだ。本文を読むとどうも当時はモデルとして子供でもピンとくる人がいたように読めるが、何を想定していたかはよくわからない。

 上で紹介したUFOや心霊写真トリックも、この範疇といえなくもないのがいくつもある。というのも、トリックのやり方というよりは正体をあばいているといったほうがいいのがちらほらあるからだ。例えば、視野内に明るい光を入れてゴーストを出させる「ゴーストUFO写真術」、金星を映しこんでUFOだと主張する「金星UFO写真術」など。

 でまあ毛色が異なる、と書いたのはどういうことかというと、このあたり、マジックとしての有用性はそれほど高くなさそうだなということだ。マジックは普通ショーとして人前でやるものなので、念力や透視を模したマジックというのはわかる。でも、UFO写真や心霊写真はふつー、「こんな写真が撮れちゃって……」と内輪で見せるものだろう。いや、テレビとかだとパネルでドーンと見せるけれど、それはマジックにはならないし。予言にしても、ずっと経ってから結果に合わせてこじつけるのだから、数か月にわたるわけだ。マジックとしてやるにはちょっと無理がある。

 念写はこれに比べたらマジックとして成立しそう…… と思うが、実際には撮影して現像しなくてはいけない。そんな二日も三日もかかる「マジック」は出し物としてはあまり向かない。心霊手術はやること自体は可能だろうけれど、準備と後始末は子供の手に負えるかどうかという問題がある。欄外に「あとしまつも、ちゃんとやろうネ!」とあるけれど、まあ実際大変なことになりそうだ。

 だから、このあたりのマジックは、マジックとしての紹介というよりは、超能力っぽいことがこういうふうにしてマジックとしてやれるんですよ、というのを「超能力マジック」というていをとって紹介している、という側面があるんだろうと思う。

 逆に言うと、これらは「マジック」ではなく「超能力」と言い張れば、成立する術なわけである。能力だと主張すれば、そりゃあ結果が出るまでの何日かを待つ理由も出てくるわけで。だからこそ、本の最後の項目「作者からの超能力マジック・ライセンス」で、

「しかし、これだけは約束してほしい。”術”を使った後は必ず、これは「超能力」ではなく『子超能力マジックな』なのだと公表すること!

 そうでないと、大騒ぎが広がって後でどうしようもなくなるぞ!後になっても、ちゃんというほうがいいのだ!それだけこの”術”には、スゴイ力が含まれているということなのだ!(p253)

 という忠告をしているのだろう。

 山本氏は良心的であると評しているし別にそれを否定するつもりもないけれど、なにしろ、念写事件やコックリさんなど、いくつかのトリックは、実際夜を騒がせたものを下敷きにしているわけだ。万が一著者自身や出版社が非難の矢面に立たされることを想定した護身というところも大だと思う。

 それはいいことだと思うけれど、のちに人騒がせな本を量産するようになる人、ということを考え合わせてみると、どうしてそうなってしまうんだろう…… と考えてしまう話ではある。